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福島家庭裁判所 平成元年(家)894号 審判 1990年1月25日

申立人 松原美智子

事件本人 関里子

外1名

主文

事件本人両名の親権者をいずれも申立人と定める。

理由

1  申立ての要旨

申立人は、事件本人両名の親権者を関志郎から申立人に変更する旨の審判を求め、申立ての実情として、申立人と関志郎とは、昭和63年9月7日、事件本人両名の親権者を父関志郎と定めて協議離婚し、事件本人両名は父関志郎のもとで監護養育されて来たが、親権者関志郎が平成元年11月16日死亡したため、本件申立てに及んだと述べた。

2  当裁判所の認定した事実

一件記録並びに申立人及び事件本人両名に対する各審問の結果によれば、上記申立ての事情の事実のほか、次の事実を認めることができる。

(1)  事件本人関里子(以下、「事件本人里子」という。)は、申立人と関志郎(昭和18年1月4日生、以下、「父志郎」という。)との間の長女として、事件本人関良平(以下、「事件本人良平」という。)は、同夫婦の長男としてそれぞれ出生した者であり、現在、事件本人里子は専門学校1年生、事件本人良平は高等学校2年生であり、肩書住所地で同居し、両名とも勉学の傍ら、アルバイトをしてなにがしかの収入を得て生活費の足しにしている。

(2)  申立人と父志郎とは、昭和44年11月21日婚姻して夫婦となり、事件本人ら2人の子をもうけたが、その後不仲となり、申立人は、昭和63年8月ころ家出して郡山市内に身を潜め、父志郎と別居したのち、同年9月7日、事件本人両名の親権者をいずれも父志郎と定めて協議離婚した。事件本人らの親権者を父志郎と定めたのは、当時申立人に異性関係があり、監護能力が乏しかったことや事件本人らの学校関係のためである。

(3)  父志郎は、離婚後、事件本人らの肩書住所地で父子3人暮しを続けたが、平成元年6月ころ、事件本人らを置いていわゆる蒸発し、同年11月16日白殺した。父志郎の蒸発中及び葬儀の段取りなどについて事件本人らの相談相手となり、何かと世話をしたのは、福島市○○に居住する父志郎の兄である関光郎である。

(4)  申立人は、父志郎の葬儀終了後間もなくのころ、事件本人らの父方親族と事件本人らも交えて事件本人らに関する今後のことについて協議をした際、申立人が事件本人両名の親権者となり、福島市に転居し、事件本人らと同居して監護に当たりたい旨主張し、事件本人らも申立人と同居生活することを望んだため、父方親族は、事件本人両名については一切申立人に任せるとして、事件本人らの問題から手を引いた。

(5)  申立人は、父志郎と離婚した後、昭和63年10月ころから肩書住所地のマンションで内縁の夫小松武夫と同居生活をし、会社勤めをして月収13万円ほどを得ており、内縁の夫も広告代理店に勤務しているが、前妻に対する慰籍料支払が残っており、経済的にゆとりのある生活をしているとまでは言えない。申立人は、本年2月か3月ころ、内縁の夫小松武夫と共に事件本人らの許に転居し、事件本人らと同居生活をすることにしているが、仕事の関係では郡山市の勤務先へ通勤する予定である。

(6)  事件本人らの財産としては、父志郎の遺産である、肩書住所地の宅地と建物の外、幾ばくかの預貯金があり、父志郎の生命保険金の給付請求手続はまだしていない。

事件本人らは、いずれも申立人及び小松武夫との同居生活を肯認しており申立人が事件本人両名の親権者と定められることを希望している。なお、事件本人らは、小松武夫とは何度か面接しており、その人柄には好感を持ち、同人との同居生活については危惧を抱いていない。

3  当裁判所の判断

以上認定の事実によれば、本件はいわゆる「単独親権者死亡後の親権者変更申立事件」であり、本来の親権者の指定・変更とは性質を異にするものであって、その実体面、手続面において種々の考え方がなされるところであるが、単独親権者の死亡後は親権者、後見人未定の状態となり、そのいずれにするかは家庭裁判所の裁量によって定まるちのと解するを相当とする。

そこで本件についてみるに、前記認定の事実によれば、申立人夫婦の離婚の際、事件本人らの親権者をいずれも父志郎と定めたのは、申立人が離婚の1か月前家出してまだ生活が十分に安定した状態になかったという事実もあったが、事件本人両名の学校の問題が主な理由であったこと、申立人は、父志郎死亡後、それまで事件本人らにしてやれなかった母親らしいことをしてやりたいと考え、葬儀終了後直ちに未成年者の今後について事件本人らの父方親族と協議し合ったこと、事件本人両名も申立人を親権者とし同居することを望んでいること、事件本人らの父方親族は、申立人の内縁の夫も事件本人らと同居することを快しとせず、事件本人らに関することからは一切手を引き、事件本人らのため後見人選任申立の意思はないこと、事件本人里子は、本年10月10日の誕生日で成年に達する年齢であり、両親不在中も勉学を続ける傍ら、アルバイトにも励み、弟の面倒をよく見るというしっかり者で、申立人及びその内縁の夫との人間関係も悪くはないことが認められる。

こうした事情を考慮すると、申立人を親権者として不適であるとして排斥する理由は見られず、事件本人両名の福祉のためには、事件本人両名の親権者をいずれも母親である申立人と定めるのが相当である。

(家事審判官 草野安次)

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